大学の「ひどい授業」をどうするのか? イギリスの場合。

今日、こんなニュースが朝からBBCでもちきりに。

University fees linked to teaching quality

簡単に言うと「大学の学費を教育のクオリティに連携させる」ということです。

イギリスは学費の上限が年間9000ポンド(だいたい今のレートで170万円くらい?)と決まってます。それについて大学担当の大臣から、「教育のクオリティが一定以上の基準を満たしている場合に限って、インフレ率と同じ勢いで学費をあげて良い」ようにしよう、という政策を提案されているそうです。

現在の大臣は、大学が研究ばかりに力を入れて授業に重きを置いていない、ということに痛く問題を感じているようで、それに対する対策としての政策だ、と説明されてました。

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僕は大学の授業のクオリティについては、イギリスの場合はインセンティブ設計の問題が大きいと思ってます。正直言って、大学の教員に与えられているインセンティブの仕組みを考えれば、

「授業よりも研究」

となるのは、ある種、しょうがないんじゃないかなあ、と思う部分もあります。

大学の先生は教授になってしまえばTenure(終身在任権)が得られ、基本的には終身雇用になります。が、一方でそれまでは有期契約です。教授への昇進の可能性がある准教授へのポジションで一定の実績をあげて教授にならない限り、安定は得られません。

そして、そうしたポジションへの採用にせよ、そこから先の教授への昇進にせよ、「論文をどれだけ主要な学会誌に掲載しているか、それがどれくらい引用されているか」が大事で、授業がどれくらいうまいかはほとんど参考にされない、とまことしやかに研究者の間では語られてます。

まじめに自分の将来のことを考えれば考えるほど、理屈では授業をちゃんとやったほうがいいと思いつつ、実際には授業よりも研究が気になるはずです。そもそも研究がしたくて博士課程に進んで、そのまま研究者の道を選んでる人が多いはずですしね。

LSEでも准教授クラスの先生と話してると、

「正直言って、教育頑張っても評価されないからさ・・・残念だけど」

みたいな話はたまにボソッと出てきたりします。

で、こうなっている背景の一つには、大学がおかれている状況があります。

日本でも毎年話題になる世界の大学のランキングは、多くの場合、研究上の成果が大事な指標になっています。その他にも国際化度(留学生がどれくらいいるか、とかですね)も考慮されるのですが、まずは研究で成果を上げていることが重要です。研究成果についてはある程度、定量的に評価する仕組みが国際的にできあがっているのですが、逆に「授業の質」を横断的に比較評価するのは難しいので、僕が理解している限りでは、多くのランキングで関係がないはずです。

Times Higher Education World University Ranking

なので、この手のランキングで大学の評価を上げようとすると、

「まずは研究!」

と大学の幹部も言いたくなるなるわけですね。

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実際、授業のクオリティについてはLSEもかなり問題があるようで。就職状況や企業からの評価はいいんですが、満足度は有力大学の中ではかなり低くて、学内でも問題視されてます。

実際、先日、僕が去年担当した授業の生徒にヒアリングをしてみたところ、

「全く払った学費に見合ってない。一部に素敵な先生もいたけど、

全然授業にやる気がなくて、自分の研究にしか興味がない先生ばっかり。

ほんと最悪。」

的なコメントが何人かから帰ってきました。もちろん、学生のコメントを鵜呑みにするのは少々危険な訳ですが、こういう声が出てしまうこと自体が、かなり残念な話です。

まあ、もちろん放ったらかしにされているわけではなくて、いろいろな施策が打たれています。生徒からのフィードバックアンケートを各授業ごとに学期ごとにとる仕組みもきちんと運用されてますし、イギリスの国としての大学教員の資格もあって、それを取得するためのトレーニングを通過してないと、そもそも教えられないですしね。

ただまあ、どんなにトレーニングをしようと、上記のようなインセンティブの仕組みになっている限り、そもそもの問題は解決しないだろうなあ、と言う感じがします。正直言って、教育を頑張っても評価されないのであれば、個人の善意頼り、ってことですからね。

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てなわけで、イギリスの場合は、大学に対する金銭的なインセンティブを導入すること、さらに言えば、教育の質のランキングを公表することで、大学の、教員に対するインセンティブの与え方を変えようとしているわけです。

僕は、大学の教員にとっては、研究も教育も大事な仕事だと思っているので、趣旨としてはいいことだと思います。教育の質を評価するのは難しい、という声もあるでしょうが、それは研究の質だって同じですからね。それをいろんな無理はあっても定量化して評価する仕組みが出来上がっているから、研究成果に関心が向くわけで。無理してでも教育の質を定量評価することは、基本的には前進だと思います。

が、一方で、それを学費に連動させるってのがなんだかなあ、という感じもします。日本でもそうですが、学問にせよ教育にせよ、評価を金の配分に反映させて金で釣る、ってのには、なんとも釈然としない部分があります。まあ、それよりいい方法が思いつくわけではないのですが・・・うーむ。

ちなみに、日本の先生たちのインセンティブはどうなってるんでしょうね?一度、専任講師とか、准教授になってしまえば、正社員と同じで基本的にクビにはならないはずですから、イギリスとは少し違うはずですよね。どのようなインセンティブが働いているのか興味深いところです。誰か教えてください。

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投稿者: 吉川克彦(Katsuhiko Yoshikawa)

国際人事・組織論に関する研究者、コンサルタント。PhD (Management, London School of Economics and Political Science)。2017年8月より、上海交通大学安泰経管学院にて、Assistant Professorに就任予定。 主な研究分野は組織論、人材マネジメント論、国際経営論。 Journal of World Businessに査読付き論文が掲載されたほか、Academy of International Business, Academy of Management, Association of Japanese Business Studiesなどの学会にて研究発表の実績あり。また、日本国内でダイバーシティマネジメントについての書籍を出版。また、人事関連の雑誌への寄稿、新聞への論考を掲載。主な研究実績についてはこちら。 コンサルタントとして、様々な業界の日本企業の人事・組織変革を支援。主なテーマは、企業理念の浸透、ダイバーシティマネジメント(女性活躍促進を含む)、人事諸制度の再構築、海外法人における人事体制の確立、次世代リーダー育成、採用戦略の立案など。 1998年にリクルートに入社。人材、組織に関する研究、コンサルティング、サービス開発に 従事。2013年に同社を退社。 1974年 兵庫県西宮市生まれ。京都大学経済学部卒。2011年にLondon School of Economics and Political Science にてMSc. Management, Organisations and Governance 優等修了(Distinction) および、PhD in Management (Organisational Behaviour and Employment Relations Track)を終了。 ご連絡はこちらまで。 katsuhiko78@gmail.com / k.yoshikawa@lse.ac.uk

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