世界の英語力はこの10年でどれくらい変わったのか。

最近の国際研究の世界では、「言語」が非常にホットなトピックになっています。

その中でも特に、英語が世界の事実上の標準語になっていること、多くの企業が英語を企業の公式言語としていることが、組織や人々の関わり合いにどのような影響があるのか、という問いは、中核的な問いの一つです。

それに多少絡んで、TOEFL(R)のデータを用いて、世界の各国の英語の点数がどのように変化したのか、を最近分析したので、今日はそれについて書こうかと。

1995年と2014年のデータを使って、世界のいろいろな地域の得点を比較したのがこちら。アフリカ、中南米、中東については1995年の時点で比較的受験者数が多かった国を各地域からピックアップしました。ちなみに、TOEFLはReading, Listening, Speaking, Writingの4科目が各30点づつで、満点が120となっています。MBAや修士のコースへの出願は100点、あるいは105点くらいが求められることが多いです。

English Score 20151122

TOEFLは大学などへの出願に使われることが多いテストなので、あくまでも若い学生が母集団の多くを占めるため、必ずしも各国の人口を代表しているとは言えませんが、受けている人数が多く、世界中で使われていること、点数が長期間にわたって安定的に公表されていることから、長期で英語力を国際比較する上では、まあまあ適切な指標だと考えられます。

ちなみに、社会人の英語の国際比較の指標としては、English Firstが出しているEPI-cがあるのですが、データが比較的最近のものしかないのが残念です。

さて、このTOEFLのデータから最初に注目したいのは、世界中のTOEFLを受けている人の平均点は11点上がっているということです。これは英語への関心が世界中で高まり、英語教育、英語学習に労力が払われたことの結果、と考えていいのかな、と思います。

次に、地域別にみると、ヨーロッパでは、オランダや北欧をはじめとして平均が90点台の国が目白押しなのですが、ドイツはその中の一国です。この10年間、高どまりしていると言っていいでしょう。さすがに120点満点のテストで、国全体の平均点が8割を超えるのはかなり難しそうです。一方、フランスは比較的英語が通じにくい国として知られていますが、この10年で随分点数が上がっていますね。

アジアの中で比較すると、日本は世界の平均並みに点数が上がっています(10年で12点アップ)が、韓国はそれをはるかに上回る点数、なんと20点、高めてきています。日本の上昇も、世界的に見ればまずまずなのですが、1995年の時点での点数がかなり低いことと相まって、ここでピックアップした国々の中では残念ながら最低の平均点になっています。中国は若干下がっていますが、もともとの点数が高いことを考えると、受験者層が比較的限られていたのが、拡大した結果かもしれません。

中南米や中東においても、メキシコ、ブラジル、エジプト、レバノンのいずれにおいても10点前後の増加がみられます。一方、アフリカは点数が低下していますが、こちらも中国同様、10年前の値が限られた高度教育を受けた限られた層の点数だったのでは?ということが考えられますね。今は母集団自体が広がっているのではないか、ということです(残念ながら、2014年のデータでは母集団数がわからないので、確認できませんが・・・)。

絶対値の水準を見ると、ここで抽出した国々の平均点は、80点台の中盤あたりに収束してきていますね。もちろん、世界の平均がそれくらいですので、なんとなくそういうものかもしれませんが。その中での日本の得点は残念な水準と言っていいでしょうね。

ちなみに、Tannenbaum & Wiley (2008)によると、ヨーロッパの語学力に関する基準であるCEFRでB2、すなわち「実務に対応できる者・準上級者」に相当する水準に対応するTOEFLの最低点が87点だそうですから、世界の様々な国の平均点がそのレベルに近づいているのに対して、日本の平均点はまだまだそこからは乖離がある、と考えるとわかりやすいかもしれません。

結論としては、それなりに英語教育には公的にも私的にも力を入れてきた成果として、世界平均と同じくらいには英語力は上がっているものの、それ以上に劇的な成果が上がっているわけではない、ということ、また、絶対値としても相対的に見ると低めの値にとどまっている、ということが言えそうです。

もちろん、人口当たりの受験者数の比率など、一律の条件で比較しているわけではありませんから、完全にこれだけで何かを言うのは国際比較の観点では無理があります。上述の通り、たくさんの人が受けているのと、高度な教育を受けた一握りの人が受けているのでは、わけが違いますから。そこは割り引いて考える必要があるのですが。

僕の研究としては、こうした英語力の違いが、企業としての国際展開のやり方の違いや、人事政策の違いにどのように影響しているか、を考えていくのが面白いところです。企業レベルでも、楽天、ホンダなどでの英語の公用語化が国際経営に与える影響は研究として面白いのですが、国レベルでも英語力の影響は色々とありそうですから。

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投稿者: 吉川克彦(Katsuhiko Yoshikawa)

国際人事・組織論に関する研究者、コンサルタント。PhD (Management, London School of Economics and Political Science)。2017年8月より、上海交通大学安泰経管学院にて、Assistant Professorに就任予定。

主な研究分野は組織論、人材マネジメント論、国際経営論。
Journal of World Businessに査読付き論文が掲載されたほか、Academy of International Business, Academy of Management, Association of Japanese Business Studiesなどの学会にて研究発表の実績あり。また、日本国内でダイバーシティマネジメントについての書籍を出版。また、人事関連の雑誌への寄稿、新聞への論考を掲載。主な研究実績についてはこちら。

コンサルタントとして、様々な業界の日本企業の人事・組織変革を支援。主なテーマは、企業理念の浸透、ダイバーシティマネジメント(女性活躍促進を含む)、人事諸制度の再構築、海外法人における人事体制の確立、次世代リーダー育成、採用戦略の立案など。

1998年にリクルートに入社。人材、組織に関する研究、コンサルティング、サービス開発に
従事。2013年に同社を退社。

1974年 兵庫県西宮市生まれ。京都大学経済学部卒。2011年にLondon School of Economics and Political Science にてMSc. Management, Organisations and Governance 優等修了(Distinction) および、PhD in Management (Organisational Behaviour and Employment Relations Track)を終了。

ご連絡はこちらまで。 katsuhiko78@gmail.com / k.yoshikawa@lse.ac.uk

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