ビジョンは目に見えなければならない。

もう何年も前になるが、当時の職場の同僚と一緒に書籍を出版した。スイスに本拠地を置くビジネススクールIMDの北東アジア代表を現在勤めている高津尚志さんと一緒にやった、懐かしい仕事だ。

感じるマネジメント

(リクルートHCソリューショングループ著、英治出版)

この本では、株式会社デンソーさんで3年くらいかけて取り組んだプロジェクトの経験をベースに、ビジョンやバリューといった企業がが大切にしている考え方を社員に共有していく上で、どのような風に取り組めばいいのか、といったことをまとめている。

「ビジョン」とは、企業として将来実現を目指す姿を描き出すものであり、「バリュー」とは、その過程で大切にする価値判断の基準を定めるものだ。

どうしても、具体的な戦略や事業計画と比べ、「ふわふわしている」印象があるため、ビジョンやバリューが共有されることが、実際に経営にどのような影響を与えるのか?というのは、若干わかりにくい。プロジェクトに取り組んでいる当時からずいぶん同僚たちと議論した。

当時から私が主張していたメリットの一つは、共通のゴールと価値判断の基準を一人一人が自分のものとして内面化することによって、多くの人々の足並みが揃い、活動のコーディネーションのコストが低下するとともに、全体の効率が上がる、というものだ。

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最近は、自分の研究分野に直接つながりがないこともあって、こうしたことについて考える機会も減っていたのだが、昨日たまたま全く別の文脈で論文を探していて、そのものズバリの論文を発見した。University of Pennsylvania, Wharton School のANDREW M. CARTON氏らの発表した、以下の論文だ。

A (BLURRY) VISION OF THE FUTURE: HOW LEADER RHETORIC ABOUT ULTIMATE GOALS INFLUENCES PERFORMANCE

この論文で著者らは、大きく二つの仮説を設定し、検証している。


①リーダーが発信するメッセージに、企業の目指す将来像をイメージさせる言葉が多く含まれているほど、業務のコーディネーションが効果的になり、業績が高まる

②この際、同時に、企業が大切にする価値観が限られた単語数で表現されているほど①の効果が高まる


それぞれについて多少補足すると、①に関しては、例えば「患者の満足」は抽象的で、イメージが浮かぶものではないが、一方、「患者の微笑み」はイメージが浮かぶ表現である。こうした表現の方が、目指す姿が映像として色濃く頭の中で描かれやすく、効果が高い、と想定している。

②については、価値観が様々な言葉で表現されると、従業員にとっては何を元に業務の中で判断をすれば良いか混乱しやすくなる。人によって、異なる言葉を基準に判断が行われると、それはむしろ、パフォーマンスには逆効果になってしまい、①の効果を弱めてしまうだろう、と想定している。

実際にどのように検証をしたのかは煩雑になるので省略するが、結果としては、想定どおり、「将来像をイメージさせる言葉が多い」ほど業績にはプラスの影響があり、なおかつ、それは「価値観が限られた言葉で表現されている」ほど、そのプラスの影響が強いことが確認された。また、加えて、それらの効果が人々の間の業務のコーディネーションの効率によって媒介されていることも確認された。

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この分野のコンサルティングにある程度取り組んできた経験から言えば、この発見は非常に示唆に富んでいる。

ビジョンは、まさにビジョンという言葉が示す通り、未来を描き出すものでなければならない。しかし、実際には経営者が語る言葉は、時にして抽象的で、概念的なものになりがちだ。

逆に、バリューは、皆が共通して守るべき判断の基準を決めるのだから、絞り込んだ方が良い。いろいろ言うと分からなくなってしまう。しかし、経営者はときに、あれもこれも大事だ、といってしまいがちだ。

しかし、この研究からはそういったコミュニケーションは狙った効果に必ずしも繋がらない、ということを明確に示している。

もうすぐ年末である。年明けには、様々な企業の社長が念頭所感を発表するし、管理職の皆さんも自分の方針を部下に話す機会がいろいろとあるはずだ。そうした機会に、この研究の発見を参考にしてみるといいかもしれない。

  • 皆さんの働いてる組織の方針は、ビジョンを生き生きと描き出すように書かれているだろうか?経営者は、大事にすべき価値観を明確に絞り込んでコミュニケーションしているだろうか?
  • あなたが経営者、あるいは管理職だとしたら、あなたが語っていることは、これらの指針に従っているだろうか?
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投稿者: 吉川克彦(Katsuhiko Yoshikawa)

国際人事・組織論に関する研究者。コンサルタント。 現在はLondon School of Economics and Political Scienceにて博士課程に在籍する傍ら、リクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所にて客員研究員を務める。 主な研究分野は組織論、人材マネジメント論、国際経営論。 Journal of World Businessに査読付き論文が掲載されたほか、Academy of International Business, Academy of Management, Association of Japanese Business Studiesなどの学会にて研究発表の実績あり。また、日本国内でダイバーシティマネジメントについての書籍を出版。人事関連の雑誌や、新聞に論考を寄稿。 コンサルタントとして、様々な業界の日本企業の人事・組織変革を支援。主なテーマは、企業理念の浸透、ダイバーシティマネジメント(女性活躍促進を含む)、人事諸制度の再構築、海外法人における人事体制の確立、次世代リーダー育成、採用戦略の立案など。 1998年にリクルートに入社。人材、組織に関する研究、コンサルティング、サービス開発に従事。2013年に同社を退社。 1974年 兵庫県西宮市生まれ。京都大学経済学部卒。2011年にLondon School of Economics and Political Science にてMSc. Management, Organisations and Governance 修了(Distinction)。

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