昨日の夜、とある人事業界の友人から、フェースブックのメッセージで、データ分析に関する質問をもらいまして。そこから始まった会話が、データ分析を語る上では基礎でありながら、結構大事な話だったので、備忘も兼ねて書いておこうと思います。
友人からのメッセージを引用すると、
https://blog.findy.us/saiyo-jikasougaku/
この考察は正しいのでしょうか。わかるようなわからないような。
(出典:筆者の友人)
で、このサイトが何をおっしゃっているのかというと、
成長を続けている会社というのはそのマーケットで勝ち切る人材がいる「採用に強い会社」であることが多いです。(中略)
古巣のレアジョブのケースでも150社くらい競合がひしめくマーケットで「なぜ一番に上場できたか?」「なぜ消える側の会社にならなかったのか?」というと、そこで働く人の差分、レベルが他社より高かったというのが大きな理由と感じています。
(出典:Findy社のウェブサイト。筆者はYamadaYuichiro氏)
と、いうわけで、「採用力が高い」→「企業としての成長力が高い」のではないか?という因果を仮説として提示されてます。この企業は、企業の採用を支援するビジネスを展開されていますので、動機としてはよくわかります。「採用を頑張れば成長力が上がります、だから採用に力を入れましょう(そしてうちのサービス使ってください)」という訳ですね。
で、この仮説を証明するために、自社のツールを使って求人票の質を分析し、求人票のクオリティと、時価総額の関係性をグラフにして表示されています。参考に、リンク先のサイトに載っている画像を引用しますね。
ただ、残念ながら、この分析には大きな問題があります。
(出典:Findy社のウェブサイト。筆者はYamadaYuichiro氏)
この分析の問題点① 因果と相関は違う
まず一つ目は、相関と因果は違う、ということです。
統計を勉強すると必ず学ぶことですが、「AとBが相関としている」というのは「Aが高いとBも高い、Aが低いとBも低い」ということです。一方で、「AとBの間には因果関係がある」というのは、「Aが起きると、その結果、Bが生じる」あるいは、「Bが起きると、その結果としてAが起きる」ということを指します。
で、筆者の方は、「採用力が高い」→「企業としての成長力が高い」のではないか?という仮説を文中で提示されているのですが、そのあと、分析の段階になると、上の図にもあるように「採用力が高い=時価総額が高い」と、相関の分析をしてしまっています(あ、もちろん、時価総額が高いことと成長力が高いことは違う、という点も重要な問題点ですね。成長力を語るのであれば時価総額なり、売上、利益なりの増加率を見なければいけません)。
実際、グラフを見ると相関しているように見えますね。ただ、この相関を持って、「採用力が高い」→「企業としての成長力が高い」という因果は語れません。逆の相関があるからです。例えば、
「企業としての成長力が高い」→「採用数が多い」→「採用の経験が積める」
「企業としての成長力が高い」→「人がボトルネックになる」→「採用に力をいれる」
のように、「企業の成長力が高い」ことによって採用力があがる、という因果の流れはたくさんありえます。
なので、本当に「採用力が高い」→「企業としての成長力が高い」という因果を証明したいのであれば、相関からさらに踏み込んで、この向きの因果である、ということを示す分析をする必要があります。
この分析に潜む問題点② 因果とは本質的に時間差を含むもの
で、そのような分析をする上で考えなければいけないのが、因果というのは、本質的に時間差を含むものだ、ということです。
今回の例で言えば、「採用力が高い」と、「戦略にあった人が取れる」し、「競合よりいい人が取れる」ので、「人材がいい仕事をしてくれる可能性が高い」ために、「いいサービスが開発できたり、有効なマーケティング上のうち手を打ったり、効果的なコストダウン施策が打てる」ので、「成長力があがる」という話ですから、普通に考えれば、今この瞬間に「採用力が高い」ことが、企業としての成長力につながるためには、少なくとも数ヶ月単位の時間がかかりそうです(どれくらいの時間がかかるかは、企業の規模とか、意思決定の身軽さとかに影響を受けそうですが)。
なので、「採用力が高い」→「企業としての成長力が高い」ことを示す上では、今この瞬間の「採用力」と、「成長力」の関係を分析しても説得力が実はありません。少なくとも数ヶ月はずらしてデータをとって、その間の関係を分析する必要があります。
具体的にいえば、今日この瞬間の採用力を分析した上で、その後半年、あるいは1年、3年、という期間で見たときに、今この瞬間採用力が高かった企業が成長したのか、ということを分析しないと、「採用力が高い」→「企業としての成長力が高い」という仮説は検証できない、ということです。
なので、このサイトがこのデータをもとに結論として、
企業を成長させたい経営者ではあれば「採用力」は大事ですね。
と語っているのは、無理がある、と言わざるをえません。