海外拠点間の人事制度の統合をめぐるチャレンジ

先日、中国に拠点を構える日本企業で経営や人事にかかわる責任者の方々をお招きした小規模なディスカッションの機会を持ちました。その際に議論になったのが、中国に複数ある拠点にどのように世界共通の人事の枠組みを落とし込んでいくか、と言う問題です。

日本で働いていると、普通は社内で人事制度は統一されているものなので、海外赴任の経験がない方には、なぜこういう問題が生じるのか、よくわからないと思います。こうした現象が生じる経緯としてよくあるパターンはこういう感じです。

  1. 社内にある様々な事業がそれぞれに海外拠点を設立する。各事業ごとにそれぞれの事業運営上の思惑の中で立地や設立の形態、持たせる機能は様々。
  2. 拠点の設立にあたり、各事業から赴任者を送り込む。ただし、まずはオペレーションを立ち上げることが優先のため、多くの場合、生産や営業など実業部門の専門性を持つ人材と、財務の専門家が送り込まれる。
  3. この人たちが、自分たちの専門分野の仕事の傍ら、人事制度を整備する。現地で人事経験者(採用や給与計算、労務管理などができる人)を採用し、運用を任せる
  4. この結果、本社の人事制度や現地人事の意見をベースに、それぞれの拠点が自分たちの業務の特性に合わせた制度を設計し、実行するようになる。
  5. それらの拠点の運営が軌道に乗り、ある程度成熟してきたところで「地域統括会社を立ち上げる」という話が持ち上がる。中国であれば中国本土の拠点を統括する拠点、あるいは韓国や台湾の拠点も合わせた東アジア統括拠点、といった形が一般的。
  6. それに合わせて、人事の地域統括部門を設け、人事の専門家が送り込まれる。この方々は、各拠点に不足している人事の専門性を補いつつ、地域として共通の人事施策を実施していくのが役割になる。
  7. さらに、この頃になると、各拠点で、次世代幹部人材の育成が問題になる。日本人幹部だけで組織運営する段階から、現地の人材を登用し、戦略形成やイノベーションの核を任せていくことが狙い。

さあ、ここで問題が表面化します。というのも、各社の人事制度はバラバラで、しかも、人事のプロではない人たちが、日本人赴任者を中心に組織運営することを前提に設計、運用した制度だからです(もちろん、当事者である初期の赴任者たちが悪い、というわけではありません。その人たちが、与えられた状況の中で真面目に検討した結果であることがほとんどです。そもそもこういう状態にならないようにするにはどうするか、については最後に触れます)。

多くの場合、「各階層に求める要件」が明確に定義されていなかったり、仮に定義されているとしても「自ら主体的に動いて影響力を発揮する」ことが管理職にもとめられる役割に含まれていなかったりします。むしろ、「日本人の言うことを素直に聞いて動く」人たちが重用される人事運用になっていたりします。

また、日本でもままあることですが(というか、日本のあり方がそのまま移植されている、といったほうがいいかもしれません)、厳しいことも含めて率直に評価をフィードバックして評価を能力開発につなげる慣行が確立されていなかったり、パフォーマンスに応じて評価にメリハリをつけることも行われていなかったりします。

加えて、各社の人事制度がバラバラだと、各拠点横断の幹部研修を実施しようにも候補者選びの基準が設定しにくいです。また、リーダーシップ開発の定番である「未経験の職務を通じて視野や能力の幅を広げる」ことをやろうにも、拠点を超えた人の登用、異動も難しい。さらに、リーダーシップ育成の研修をやったとしても、人事制度とその運用が上記のような状態のままでは、研修で学んだ効果は一過性になってしまうことが目に見えています。

と、いうわけで、「自社としてのリーダーに期待する要件」をきちんと反映した世界共通、あるいは地域共通の人事制度の枠組みをつくり、各拠点に落とし込む、というのが本社人事、地域統括人事の大きなテーマになってきます。

これは、本社人事や地域統括人事の立場から見ると、かなり合理的な話です。

また、各拠点の人たちから見ても、登用されるべき人たちがきちんと登用され、現地の人材に中核的な仕事を任せていくための取り組みですから、長期的に見れば良い話、のはずです。

が、もちろん話はそう簡単にいきません。

そもそも、現在、各拠点の人事を担っている人たちは、今の仕組みを整備して運用してきた人たちですから、「今の仕組みで十分回っているのに、なぜ、わざわざ外から誰が作った仕組みを入れて、ゼロから運用を組み立て直さないといけないのか」と考えるのは(近視眼的ではありますが)自然な話です。

一方、現在、各拠点の管理職を担っている現地の人材は、脅威にさらされます。というのも、今までは日本人幹部の指示の元で受動的に動いていれば良かったのに、自ら主体的に動いてリーダーシップを発揮しろ、という、それまでに期待されてこなかったことをいきなり求められるからです。抵抗する人が出てもちっともおかしくありません。また、趣旨に賛同するとしても、今まで適当にこなしてきたフィードバックをきちんとやれ、と言われたりするわけで、面倒が増える、と感じる人もいるでしょう。

というわけで、これは結局のところ「変革プロジェクト」なのです。

組織において新しいことをやろうとすると、賛同する人も、反対する人もいて、どちら付かずの立場で批判的に見る人もいる、というのが一般的ですよね。

こうした問題に関わる人事の方々がこの活動を「人事制度の展開」として、トップダウンで順次落とし込んでいけばいい、と考えると現地の反発を買いがちです。押しつけに見えるからです。それよりも、これを「変革のプロセス」なのだ、というふうに捉えて推進するべきです。

新たな取り組みに対する(現地の人事や管理職も含めた)賛同者を集め、変革を正当化するロジックをつくり(=やらなければいけない理由、やることで幸せになれる未来像を明確化する)、全員にメッセージを発信し、賛同者を核に小さな成功事例を生み出し、その成功例をレバレッジして賛同者を増やしていく、そして、古い仕組みや考え方に固執する人を徐々に取り除いていき、新たな取り組みを定着させる、というのが変革の一般的なプロセスです。

こうした視点から取り組みを設計すれば、今、自分たちがどこにいて、次はどんなアクションを取るべきなのだろうか、というのが見えてくるはずです。

「古い仕組みや考え方に固執する人を徐々に取り除いていき」という部分が最大の難関でしょう。「考え方を丁寧に伝え、育成施策も行うことで生かしていく」という考え方もひとつですが、どうにもならない場合もあるので、最初から、「彼らをポストオフして、新しい考え方に会う人たちに登用の機会をつくることも辞さない」ということも前提にしたほうがむしろうまくいくケースが多い、というのが私の考えです。

あとは、「世界・地域共通の制度」といっても、何でもかんでも共通化する、というのはやめた方が良いですね。拠点のビジネス特性や現地の慣行を鑑みて、「譲れない部分は共通化した上で、現地適応すべき部分は現地適応する」という考え方のもと、各拠点の人々と作り込んでいく、というアプローチの方が、結果的に進みやすい、というのが先行研究からもわかっています。

 

もう一点、考えるべきは、そもそもなぜこうした問題が生じたのか?ということです。冒頭でご紹介した1〜7のプロセスに戻ってみましょう。

私が考えるに、ポイントは3と4にあります。「現地に戦略的な人事のプロ(本社から派遣するにせよ、現地で採用するにせよ)を置くのが遅い」上に、「そもそも標準がない」ので、現地で戦略的な人事のプロではない人が自己流で制度を設計せざるをえない、というのが全ての始まりです。

そう考えると、こうなる前に本社の人事がやるべきことがある、というのが浮かび上がってきますね。まあ、企業が多国籍化するプロセスではここまでのことは思いつかない、というのも当然なのですが、日本企業の多くはそれなりに国際展開の経験があるわけです。ですから、そうした取り組みを積極的に行わない理由はもはやない、はずです。

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投稿者: 吉川克彦(Katsuhiko Yoshikawa)

国際人事・組織論に関する研究者、コンサルタント。PhD in Management(経営学博士)。2017年8月より、上海交通大学安泰経管学院Assistant Professor。 主な研究分野は組織論、人材マネジメント論、国際経営論。研究者への転身前には、コンサルタントとして、様々な業界の日本企業の人事・組織変革を支援。 1974年兵庫県西宮市生まれ。1998年京都大学経済学部卒。同年リクルートに入社。人材、組織に関する研究、コンサルティング、サービス開発に 従事。2013年に同社を退社。2011年にLondon School of Economics and Political Science にてMSc. Management, Organisations and Governance(Distinction) および、PhD in Management (Organisational Behaviour and Employment Relations Track)を修了。 ご連絡はこちらまで。 katsuhiko78@gmail.com / k.yoshikawa@lse.ac.uk

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