あれもこれも言ってはダメ。

昔の職場の先輩が、日本から中国に3週間ほど滞在する、というので食事に行きました。

以前から中国語を勉強してて、中国に時々来ているのはなんとなく知っていたのですが、今回はなんと「案件が落ち着いたタイミングをつかって(彼女は会社勤めではなく、独立してコンサルタントをやってます)以前から興味があった中国のネットベンチャーで3週間くらいインターンをしようと思って」とのこと。また面白いことをやってますねえ、ということで、旧交を温めに近所のうまい上海料理の店に一緒に行ったのでした。

今日の本題はそこで出た彼女のこの発言。

「ホテルの部屋でテレビつけると、中国の経済成長とか、中央の今後の政策とかを紹介する、半分プロパガンダみたいな番組をずーっとやってるのよ。中国語の勉強にもなると思って見てたんだけど。

それでふと思ったのが、習近平とかの演説ってポイントが明確ですごくわかりやすいのね。これからの3つの重点政策は『貧困の撲滅』『環境の改善』と、なんだっけ、ああ、『金融の安定化』だったかな。

これからみんなの国をよくしていきますよ、そのためにこれに集中して取り組むんですよっていうのがはっきりしてて、あと、2025年までに貧困をゼロにする、とか、もちろん貧困の定義にもよるんだけど、目標もわかりやすいのよね。

日本ってこういう政策的なテーマって設定されてるんだっけ、って改めて考えたんだけど、多分ないよね」

 

この話を聞いて僕が思い出したのが、僕の研究のに協力いただいている企業のことです。

その企業では、過去3年間、連続してサーベイを取らせてもらっているのですが、僕の研究上の成果とは別に、毎年、サーベイの結果に明確に改善が見られるのです。データを分析していても、これは明らかに組織の状態が改善しているな、というのが浮かび上がって見えてくるような変化ぶりで、過去にあまり経験のないスピード感で改善が行われているのです。

この企業は何が違うのでしょうか?

それは、「一度にひとつのことを改善するのに集中している」ということです。僕からは、毎年の報告会で、データから読み取れる様々な懸念点や、改善の方向性などのアイデアを報告しているのですが、それを受けた経営者が「今年はこれだ」と明確にテーマを設定し、それを他の幹部や人事を通じて、徹底してその一年、改善に取り組んでいたのです。

そして、次の年にはそこが改善しているので、また、次のテーマを設定し、3年目のサーベイではそれが改善している、という次第です。逆に、改善していないポイントは3年経っても大きな変化は起きておらず、それもとてもわかりやすいのです。これには、コンサルタントを何年もやっていた僕が言うのも何ですが、唸らされました。

これは、なかなかできないことです。ついつい「あれもこれも」になってしまうからです。

「何かを優先して、他のものは後回し」と明確に集中をすることは、決断が伴います。というのも、それが正しいかどうかわからないし、後回しにされたテーマに関わっている人たちから不満が出たりするからです。

しかし、プレゼンテーションでもなんでもそうですが、一度の話で人が覚えていられるのは、たかだかポイント数個です。「あれもこれも」話されると、「なんだかいろいろあったけど、結局何だっけ?」になってしまう。人間の認知能力、情報処理能力には限界があるのです。

冒頭の習近平の例は、この好例ではないかと思います。冒頭の僕の先輩のように、よその国の政策で、勉強途中の外国語ですら、頭にポイントが残ってしまう。リーダーのコミュニケーション(あるいは国としてのプロパガンダ)としては理想的な成果ですよね(もちろん、キャッチアップ経済だから目標が設定しやすいとか、いろんなツッコミがあることは承知していますが、そうした点を引いてみても、習近平の国民に対する演説、例えば年末メッセージとかは、非常によく考えられてていて、非常に興味深いですよ)。

はっきりと優先順位をつけて、何かを捨てることは不安なのだけれども、そこで決断せずに「あれもこれも」を総花的にリーダーが話していると、結局、何も伝わらないし、組織に何も変化が起きないことになってしまいがち。逆に、色々弊害があるかもしれないけど、それをぐっと飲み込んで「これだ」と決めた方が、少なくともそこには変化が起きるわけで、むしろ組織は前に進む、ということではないかと思うのです。

「あれもこれも」は、色々拾おうとしているのに、結局「何も拾えない」ことにつながりがちなのかもしれませんね。

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投稿者: 吉川克彦(Katsuhiko Yoshikawa)

国際人事・組織論に関する研究者、コンサルタント。PhD (Management, London School of Economics and Political Science)。2017年8月より、上海交通大学安泰経管学院にて、Assistant Professorに就任予定。 主な研究分野は組織論、人材マネジメント論、国際経営論。 Journal of World Businessに査読付き論文が掲載されたほか、Academy of International Business, Academy of Management, Association of Japanese Business Studiesなどの学会にて研究発表の実績あり。また、日本国内でダイバーシティマネジメントについての書籍を出版。また、人事関連の雑誌への寄稿、新聞への論考を掲載。主な研究実績についてはこちら。 コンサルタントとして、様々な業界の日本企業の人事・組織変革を支援。主なテーマは、企業理念の浸透、ダイバーシティマネジメント(女性活躍促進を含む)、人事諸制度の再構築、海外法人における人事体制の確立、次世代リーダー育成、採用戦略の立案など。 1998年にリクルートに入社。人材、組織に関する研究、コンサルティング、サービス開発に 従事。2013年に同社を退社。 1974年 兵庫県西宮市生まれ。京都大学経済学部卒。2011年にLondon School of Economics and Political Science にてMSc. Management, Organisations and Governance 優等修了(Distinction) および、PhD in Management (Organisational Behaviour and Employment Relations Track)を終了。 ご連絡はこちらまで。 katsuhiko78@gmail.com / k.yoshikawa@lse.ac.uk

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