こんにちわ。今日は、現在やっている論文執筆の一環で「各国の英語のスコアが時系列でどれくらい変化しているか」について確認したので、その際に見えたことをいくつか書いておこうと思います。

結論から言うと、日本は学生、ビジネスパーソンのいずれの群においてもあまり英語が得意な国とはいえない(あ、これはみんな知ってますね)、加えて経年での改善の程度も少ないということになります。一方で、日本と同じような「英語が得意ではない国」でも、経年で大きく改善している国がある点が注目すべきところです。

 

英語力の国際比較に使えるデータ

英語のスコアを国際的、時系列で分析するための指標として使えるデータというのは意外と限られています。世界中で同じテストで大規模かつ、継続的に行われているものというのは限られているからです。

TOEFLの国別スコア

タイトルに書いたTOEFLはその代表ですね。世界中で実施されていて、参加者数も多い。ただし、このテストの限界は参加者の多くが学生である、ということです。特にアメリカやイギリスなどの英語圏の国への留学応募の際に使われるため、留学希望の学生がかなり含まれていると思われます。留学熱が高い国もあればそうでもない国もあるわけで、TOEFLの成績を使って国どうしの「一般的な英語力のレベル」を比較することの妥当性には疑問が残ります。実際、TOEFLを運営しているEduation Testing Service (ETS)も、毎年出している国別平均点レポートの中で、「この点数を使って国同士を比較するのは適切ではない 」と明記しています(ちなみに年のはこちら2017年の国別平均スコアはこちら)。

更に言えば、僕のやっている研究は経営論・組織論ですから、「ビジネスパーソンの英語力」を知りたいわけです。現代のグローバル化を考えれば、企業に入ってから英語を改めて勉強する人は、日本に限らず多いはず。そう考えると、ビジネスパーソンの英語力を直接調べられるdデータはないものだろうか?と言うことになります。

TOEICの国別スコア

ビジネスパーソンを対象にしたテストとしては、日本でも企業でよく使われているTOEICがあります。TOEFLと同じくETSが実施しているもので、160カ国以上で実施されているとのこと。

このテストの難点は、Reading とListeningだけのテストが一般的に広く実施されていることです。コミュニケーション力として欠かせないSpeakingとWritingは別テストになっています。日本の場合、僕が観察する限りでは前者が圧倒的に多くの人が受験しており(昔、何回か受けました)、後者の受験生はかなり限られるのではないかと思われます(受けたことないです)。さらに、ReadingとListeningの国別のスコアの平均値のレポートによれば(例えば2017年のデータはこちら)、レポート内によればデータはアジアに偏っているとのこと。日本ではTOEICは様々な企業の昇進昇格基準に組み込まれるなど、かなり幅広く使われているので、日本の平均点は「多くのサンプルを元に日本のビジネスパーソンの英語力を捉えている」と言えるように思いますが、他の国だとそうでもない可能性もありますね。

EF Education FirstのEPI-c

もうひとつ僕が知っているビジネスパーソンの英語のデータとしては、EF Education FirstがリリースしているEPI-c (English Proficiency Index for companies)があります。同社は世界中で英語教育を中心に教育ビジネスを展開している企業ですが、同社が世界中で実施した英語テストのデータを元に国別のスコアを出したものです。

こちらは、テストの中身が明確に説明されていないのですが、レポートの記述を見る限り、Speakingの能力も考慮されているようです。サンプル数に関しては、2014年のレポートによれば、世界各国の企業及び政府の従業員10万人以上のデータを元にしている、とありますので(ちなみに、TOEICの規模は上述のレポートからはわかりません)、かなり大規模なのサンプルに基づいた調査だと言えます。また、サンプルの地理的なバランスは、40%がヨーロッパ、35%がアジア、20%がアメリカ(中南米が中心)となっており、TOEICよりも良いですね。

ただ、最近のデータがどうなってるか気になってサイトをのぞいてみたのですが、現在のEF社のウェブサイトにはEPI-cに関する記載が見つからないのですよね。新しい点数が更新されてないのはデータとしては残念であります。

と、いうわけで、いずれも帯に短し襷に長し、という感じでばっちり国別・時系列比較できるデータがないわけですが、とはいえ見える傾向を書いておこうと思います。

国別の比較

国別似比較ができるのはTOEIC、EPI-cになるわけですが、日本のポジションはいずれにおいてももあまり芳しくないです。

TOEICでは2017年のReadingとListeningの平均点リストでは大体47の国・地域のうち38位。ただし、これは上述の通り、受験者の層に国による違いがありえる(日本だとかなり幅広い層が受けているが、他の国ではそうでもないかもしれない)ため、額面通り受け止めるのは危険ではあります。

ただ、EPI-cの2014年のデータでも傾向は似てまして、日本は「Low proficiency(=英語力が低位)」に分類されてます。内訳を見てみると、

  • High proficiency(=英語力が上位):デンマーク、オランダ、スウェーデン、フィンランド、ベルギー、ポーランド、スイス、アルゼンチン
  • Moderate proficiency(=中位):ウルグアイ、スペイン、ドイツ、チェコ
  • Low proficiency :フランス、イタリア、インドネシア、日本、中国本土、台湾、コロンビア、パナマ、ベトナム、韓国、トルコ、メキシコ、ロシア、ブラジル、チリ、ベネズエラ、コスタリカ、アルジェリア、サウジアラビア

という感じですね。国の順序はスコア順ですので、日本は低位ではあるものの、まだ「まし」な方だと言う風に解釈もできると思います。

これらを総合すると、日本のビジネスパーソンの英語力は、「世界的に見ると上位でも中位でもなく、低位に入る」と捉えるのが妥当なところといえそうです。ただし、「ダントツに悪い」と言い切れるわけでもありません。

時系列で見てみると。

さて、TOEFLについては国ごとの比較はだめ、と言われているわけですが、とはいえ国別平均を眺めてみると上記と同じ傾向が見られます。世界的にみて成績がいいのは北欧からオランダ、ドイツ語圏(ドイツ、オーストリア、スイス)です。120点が満点のテストで95点から100点近い平均点が2000年代以降、継続的に続いてます。フランスはそれよりも若干落ちて90点を割るくらい。日本は70点程度が続いています。

TOEFLに関しては、毎年定期的に集計が出ておりまして(TOEICも同様のようですが、手元にデータがないので割愛します)、時系列で変化を見ることができます。

面白いのは、年を経て、点数が上がっている国がそこかしこにみられることと、そのペースに国による違いがあることです。例えば、上記の北ヨーロッパ諸国の成績は2000年代以降で見る限りあまり変わりません(おそらく、上限近いということでしょう)。一方、日本、韓国、イタリアで比べると結構変化しています。

日本   (2006年)65点 → (2012年)70点 →(2017年)71点

韓国   (2006年)72点 →(2012年)84点 →(2018年)83点

イタリア (2006年)71点 →(2012年)90点 →(2018年)91点

いずれも2006年から2010年代にかけて一定の上昇が起こり、その後はそこで止まっているのですが、上昇幅の違いが要注目です。日本は5点程度しか上がっておらず、「もしかしたら誤差?」とも見えるわけですが、韓国では10点以上、イタリアに至っては20点も上がっており、明らかに「何かが起きた」と思われます。

こう考えると、日本にもおそらく「伸びしろ」はかなりあるのではないかと思われます。「日本人には英語は難しい」と言いますが、2006年の段階で日本と大差がなかったこれらの国が、大きな改善をしていることを考えると、諦めるのはまだ早い、と言う感じがします。

早期からの英語教育についての議論や施策も様々に行われていると聞きますが、僕はそちらは専門ではないのでここでは触れません。ただ、「学習のインセンティブ」と言う面について少し触れたいと思います。

イタリアの場合は金融危機以降、国内の若者失業率が半端ないため、イタリア人のPhD仲間曰く「海外に出ないと職が見つからない」というくらいの切迫感があるようです。そうした状況下だと、英語学習は将来のキャリアに直結します(ホワイトカラーに限らず、例えばサービスの現場でもイタリアをでてイギリスで働く、みたいなことはふつうにありますし)。韓国の場合も、受験競争→就職競争の過酷さと、「財閥系に就職できないと、安定な職を得るのは難しい」という現実(97年の経済危機以降、雇用の流動化が激しく進んでいるので)が、英語学習熱に少なからず影響しているのではなかろうかと推察します。

この点から考えると、日本に関しても、企業への就職や、その後のキャリア発展の中で「英語が使える」ことが機会につながるのだと言う認識が若い層とその親の間に広まっていくと、点数にも変化が出てくるのかもしれませんね。

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