久々のアカデミックキャリア関連の投稿です。

たまにしか書かないのですが、実は本ブログでもっとも継続的に読まれるジャンルです。特に何もしなくても、検索エンジン経由で常に一定数の読者が訪れてくれている様子。やはりアカデミックキャリアを選ぶのか選ばないのか、どうしようかと真剣に悩む人たちが一定数いらっしゃるのではないかと思われます。

ちなみに、過去最高クラスに読まれているのがこちら。

過酷なアカポス(アカデミックポスト)市場の現状と、そこでの就職活動の実態

さて、今回は就職した後どうなるのか、という話です。結論から言うと、表題にある通り、論文をとにかく発表しないといけないけどそれにはとっても時間がかかるので、覚悟しておきましょうね、と言うお話です。

ちなみに、あくまでも僕の分野である経営学においてどうなのか、ということしか実体験がありませんので、その前提でご覧いただければと思います。


大学における教員の主な仕事は三つあります。(1)研究をして論文を書いて学術誌に発表する、(2)授業をする、(3)学部などの運営に関わる、です。

このうち、新米教員であるアシスタントプロフェッサーに期待されるのは何よりもまず(1)であります。もちろん(2)も一定数やる必要がありますが、それほどたくさんのコマ数は期待されませんし、(3)に関してはほぼ期待されていません。この傾向は特に研究に力点を置いているアメリカ、ヨーロッパ、一部のアジア圏(シンガポール、香港、中国本土など)の大学では顕著です。

学術誌と言ってもなんでも良いわけではく、ビジネススクールのランキングに利用される有力学術誌(研究者の間ではAジャーナルと呼びます)に載せるのが重要です。例えば、ビジネススクールのランキングとしてはFinancial Timesのランキングが有名ですが、それにカウントされる学術誌は50個決まってます(ちなみに、50というと多く感じるかもしれませんが、専門分野に別れているため、僕が投稿する対象になるのは10くらい)。

また、Aジャーナルに惜しくも届かない準Aジャーナル、それよりも落ちるけど、専門分野の研究者はだいたい読んでいるBジャーナル、という風に続きます。基本的にはランクが落ちるほど審査は厳しくなく、掲載されやすいです。

で、僕はこの2年の間、授業は年間4コマ(秋学期に2コマ、春学期に2コマ)だけ担当し、学部運営に関しては新人採用の面接をする程度、あとは延々論文をやっておりました。また、その傍でコンサルティングも少々しております。

そこでの成果はと言うと、自らの恥をさらすようですが、現状、以下のような感じです。

<掲載済み、あるいは(ほぼ)決定済み>
・小粒な学術誌(Cランク?)に論文を2本発表
・Aジャーナルに論文1本を発表(がほぼ決まり)

<投稿し、ある程度進んだけどダメだったもの>
・準Aランクの学術誌で、ある程度の段階までレビュー(審査)が進んだものの最終段階でリジェクト(却下)されたもの2本

<まだ準備中で投稿していないもの>
・分析まで終わっていて、Aジャーナルを狙って書いているもの2本
・同、Bジャーナル狙いになりそうなものが1本
・データがほぼ集まっていて、準Aを狙えそうなもの1本 

小粒な学術誌については、テーマ的に、自分のやっていることを比較的手軽に世に出せるチャンスがあったので投稿したものです。個人的には満足ですが、アカデミックな業績としては(今の大学では)全くカウントされません。

Aジャーナルへの掲載が(ほぼ)決まった論文は、研究者としての私の現在の目玉となる業績ですし、所属大学の研究実績としてランキングにも貢献できるものです。具体的には、組織論・組織心理学の分野では世界トップジャーナルであるJournal of Applied Psychologyから先日、conditional acceptance(ちょこっと手直しする前提で採択)の連絡をもらいました。2年で一本もAジャーナルが出せないとかなり辛いなあ、と思っていたので、ようやく一服、と言う感じです。

さて、ここからが本題ですが、この段階に至るまでには、研究のアイデアを考えついてから、実に数年単位の時間がかかっております。

これはもともと博士論文でして、構想➡︎データ収集➡︎分析➡︎博士論文執筆に約3年かかっています。その後、上海に来てから投稿論文化に約半年、投稿➡︎レビュー(審査)➡︎フィードバック➡︎フィードバックに基づいて手直しをして再提出➡︎第2回レビュー➡︎フィードバック➡︎さらに手直しして再提出➡︎条件付き採択➡︎さらに修正(今ココ)に1年半かかったと言う感じですね。

ですので、トータル5年です。

レビューというのは、論文に関連する分野で成果を挙げている研究者が論文を読んで、掲載に値する価値やクオリティがあるかどうかを審査し、ここはどうなの?これ変えないとダメだよ、とフィードバックをする、というものです。一般的にはこれは、ダブルブラインド、すなわち、レビューをする研究者は誰が筆者か知らない状態で審査を行い、僕たち筆者からも誰がレビューをしているかわからない、という公正性を意識した仕組みになっています。

トップクラスのジャーナルともなると、審査は非常に厳しく。僕たちの場合は、「この観点での検証が足りないけど、今のデータじゃできないから、新たにデータ取り直しだね」的なフィードバックが2回とも出まして、当然ながらそれに対応してデータを取り直す、あるいは別途取っていたデータを追加で投入するという対応をすることになりました。まあ、2回で掲載が決まったので、かなり早い方。

ちなみに、準Aで最終却下になった2本のうち1本は、こちらも同じく博士課程の頃から仕込んでいた論文ですが、レビュー➡︎フィードバック➡︎再提出を4回繰り返し、3人のレビュー担当者のうち2人までは納得してくれたのですが、最後の1人を納得させられず、却下となりました。正直ヘトヘトです。が、懲りずに別のAジャーナルを目指して書き直す計画で現在、動き始めております。ここまですでに4年かかっているわけですが、まだここから2年くらいはかかることはまあ確定ですねえ。


と、いうわけで、時間がかかる、ということは予測がついていたものの、実際にやってみると、アカデミックな成果を出すのは実に時間がかかり、不確実性も高い営みです。

僕自身は研究自体が楽しいから続けていられますが、リジェクトされると凹みますし、レビューの要望に応えるのも神経を使う作業です。僕の共著者たちは、世界的にもかなりの成果を挙げている研究者も含まれているのですが、そう言う人たちとやっていてもそれだけの時間がかかる、というのが現実です。

本稿を読んでいただいている方には、アカデミックキャリアを志している方が多いかと思いますが、それだけの覚悟をきめて入った方がいいキャリアパスだ、ということをお伝えしたいと思います。

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