経営/組織理論を考える(3)パーソナリティ理論(性格理論)

第1回(組織アイデンティフィケーション)第2回(社会的交換)では、個人と組織、あるいは他の個人との関係に関する理論をご紹介しましたが、今回は組織心理研究(と言うよりも、心理学全般)の古典テーマである、パーソナリティ理論(性格理論)について取り上げます。

パーソナリティ理論は、非常に幅が広い研究分野で、歴史も古いので、それをひとくくりにして紹介するのはここではとても無理です。なので、以下の3つのテーマに絞ります。

  1. 基本的な考え方
  2. 性格を図る代表的な尺度Big Fiveと、その職務パフォーマンスとの関連
  3. パーソナリティは生まれつきなのか、それとも環境で形成されるのか

基本的な考え方

性格理論では、個人には状況に関わらず一定の行動・判断のパターンを示す傾向があると考え、それを「性格」と呼んでいます。

つまり、「昨日は雨で暗い気分だったけど、今日は天気がいいから明るい気分」とか、「仕事の場面では几帳面だけど、オフでは大雑把」という風な、タイミングや状況による変動に注目するのではなく、それらを貫いて「一貫して見られる個人の普遍的な傾向」に着目するのです。

このことにはメリットとデメリットの両方があります。

メリットは、個人のパーソナリティを捉えておけば、様々な場面でその人が概してどのように行動・判断するかが予測できる、すなわち、適応範囲が広い、ということです。

日本の新卒採用でパーソナリティを測定するツール(例えばリクルートのSPIなど)が広く活用されているのはこのためですね。入社後にどんな仕事をしてもらうかはっきり決まっているのであれば、その仕事に密接に関わるスキルを測定すればいい(最近は、データサイエンスなどで職種を絞った採用も新卒でもやるようになっているので、こういうことも増えてますが)わけです。しかし、一般的な日本の新卒採用の場合は、入社後の仕事を特定しません。だからこそ、幅広い職務でどのように行動しそうか、広く予測できることが重要になるわけです。

デメリットは、予測精度に限界がある、ということです。当たり前のことですが、個人の行動はパーソナリティだけで決まるわけではありません。状況によって人の行動は左右されますし、その時の気分によっても変わります(この辺りについては、「状況」の影響を議論する回に別途詳しく議論します)。言い換えれば、普遍的にどのような状況においても通用するモノサシ(尺度、と言います)で個人を捉える、ということは同時に、「状況や場面による個人の変動」を無視する、ということでもあるのです。

Big Fiveと職務パフォーマンス

パーソナリティ研究の勃興期には、様々な研究者がたくさんの質問を作って、個人の性格を図る尺度を開発していました。それらを比較統合していく中で浮かび上がってきたのがBig Fiveと言われる5つの尺度です。

  • Extraversion (外向性)
  • Conscientiousness (誠実性)
  • Openness (開放性)→ Opnennes to Change (変化への開放性)と言う場合も
  • Emotional stability (情緒安定性)→逆転してneuroticism (神経症傾向)とも
  • Agreeableness (協調性)

Costa & McRaeやGoldberg, Saucierなど様々な学者が性格尺度の統合に向けて行った論考は今となっては古典となっています。それらを受けた現状のコンセンサスとしては、この5つは、国や文化を超えて普遍的に人々の性格の違いを捉えられる、また、職場での個人の振る舞いを予測する上でも(ある程度)有効である、ということになっています。

まあ、それぞれが何を意味するかは、様々なところで紹介されていますのでググっていただければと思います。ここでは、これらの性格尺度が職場における行動とどのようにつながっているかを、Chiaburuらによる2011年のメタアナリシス論文(複数の研究をひとまとめにして再分析し、大きな傾向を抽出する手法)を基に簡単にご紹介します。

組織研究では、職場における個人の行動を、大きく「与えられたタスクをちゃんと遂行する」ということと、「与えられたタスクの範囲を超えて、職場の同僚や組織に貢献する行動をとる」ということの、大きく2つに分類してます。それぞれタスク遂行、組織市民行動などと呼ばれます(後者はさらにいろいろ分けて研究があるのですが、それについてはまた今後)。

少し脇道に逸れますが、この分け方自体が、組織研究が発展したアメリカの職場の状況を反映してます。ジョブディスクリプションがはっきり定義されているので、「与えられたタスクの遂行」と、それ以外の行動(=ここでいう組織市民行動)をを切り分けて捉えやすいわけです。日本の場合、特に正社員の場合には、組織市民行動もひっくるめて「職務の範囲」と捉えられているケースが多いと思われます(最近やった調査でも、そういう結果になりました)。

さて、性格の影響に戻りましょう。タスク遂行については、過去のメタアナリシスから、ConscientiousnessとEmotional stabilityの影響が相対的に強いことが知られています。誠実で情緒が安定している人は、与えられたタスクをちゃんと遂行する、ということですね。

一方、Chiaburuらの研究は、ConscientiousnessとEmotional stabilityが組織市民行動にも強く影響することに加えて、AgreeablenessやOpnenness の影響もかなり強いことを示しています。特に、Agreeablenessは周囲の同僚に対する支援、Opnennessは新しいアイデアを提言したりして変化を生み出すことに影響が強いようです。

ここから考えると、「明確に定義された行動をしっかりやってほしい」場合には、誠実性が高くて情緒が安定した人が適しており、さらに、「周囲の同僚や組織の状況を見て、場に貢献する行動をとってほしい」場合には、協調性があり開放的であることも望ましい、という話になりますね。

日本の新卒採用では伝統的に協調性に重点が置かれがちですが、これは、上述の通り組織市民行動が職務の一部だと考えられている、ということの結果なのでしょう。一方、開放性がそれほど語られないのは、新卒には「自分からどんどん意見するよりもまずは組織に馴染むことを優先してほしい」という期待があるからなのかもしれません。

ちなみに、Extraversionについては、特に人と接する仕事、営業や販売などでのパフォーマンスには関連が強いものの、さまざまな仕事全般に関係があるかというとそれほどでもない、ということが知られています。

結論としては、Big Fiveはいずれも職務パフォーマンスにプラスに働く一方で、個別の性格尺度によって、さまざまな職務パフォーマンスへの影響しかたは異なる、ということですね。まあ、そりゃそうだろう、という話なんですが、これがちゃんと数多くのデータで実証された、ということからは、それだけBig Fiveが安定して使えるモノサシである、ということを示している、とも言えます。

ちなみに、これらとは逆に、破壊的なパーソナリティ、Dark Triadというのも知られています。これについてもいずれ紹介します。

性格は生まれつき?それとも環境?

このテーマに関しては、組織理論の範囲を超えて、まずは心理学における「双子の研究」をご紹介しましょう。一卵性双生児の双子を赤ん坊の時から追跡して、大人になっていく過程でどのように性格が形成されていくかを調べる、という非常に気の長い研究分野です。一蘭双生児は遺伝子が同じですから、遺伝と環境の影響を見るには最適な研究対象と言えます。アメリカでは結構広く行われているようです(日本についてはすいません、知りません)。

ここからの結論は、「生まれつき半分、環境半分」というものです。一卵性双生児は、(例えば養子に行くなどの結果)かなり違う環境で育ったとしても、それなりに性格の類似性がある、一方で、完全に同じになるわけではない。つまり、遺伝子の影響もあるし、環境の影響もある、総じてほぼ同じくらい影響しているようだ、ということです。

当然、皆さんが次に気になる質問は、「じゃあ、仕事によって性格は変わるのか?」ということだと思います。答えは「変わる」です。

従来、性格は青年期までに形成されるもので、大人になったらあまり変わらない、と考えられてきました。

しかし、近年の研究でこの見方はほぼ否定されています。特定の行動や判断を求めるような仕事について2-3年くらいすると、それに対応する性格が高くなるのです。例えば、「個人が自律的に動くことが必要な職場」で過ごすとproactive personality (主体的性格)が高まることが、最近のLi らによる研究(2014)によって示されています。また、失業して一定年数過ごすと、それによっても性格が変化する、というデータを報告している研究もあったりします (Boyce, et al, 2015)。

ただ、実際には、職務から性格が一方的に影響をうけるわけではなくて、性格によって職務選択が左右される、という逆の影響もありますよね。研究からは、「自分の性格に合う職を選択する傾向がある」(個人による選択=self-selection)と、「性格に合う職の方が採用されやすいし、クビになりにくい」(組織による選別=selection)との、両方のメカニズムが働いていることが知られています。

これと上記の研究を組み合わせると、世の中全般的には「もともと強い性格が、その性格にあった仕事に携わることで、さらに強くなる」という傾向が働きやすい、ということになります。そして、実証研究からもそれを支持する結果が出ているようです。

ちなみに、この話については以前にも書きましたので、こちらも併せてどうぞ。

人の性格は環境で変わる(こともある)。

 

参考文献:Chiaburu, D. S., Oh, I. S., Berry, C. M., Li, N., & Gardner, R. G. (2011). The Five-Factor Model of Personality Traits and Organizational Citizenship Behaviors: A Meta-Analysis. Journal of Applied Psychology, 96(6), 1140-1166.

Li, W.-D., Fay, D., Frese, M., Harms, P. D., & Gao, X. Y. (2014). Reciprocal relationship between proactive personality and work characteristics: A latent change score approach. Journal of Applied Psychology, 99(5), 948.

Boyce, C. J., Wood, A. M., Daly, M., & Sedikides, C. (2015). Personality change following unemployment. Journal of Applied Psychology, 100(4), 991.

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経営/組織理論を考える(2)社会的交換理論 (social exchange theory

前回、組織アイデンティフィケーションでスタートした経営理論をご紹介するシリーズですが、第2回は社会交換理論。

僕の博士論文はこの理論の流れを組む研究でして、これまでにもいろいろと社会的交換理論については書いてきました。

世の中は交換で回っている。

職場における「恩に報いる」を科学する。

「交換」に関する考え方は世界共通?

組織の「約束破り」に対して、個人はどう対処するのか

この理論は、世の中の人と人、あるいは組織と人、組織と組織などの間の関わりを「交換」という概念で分析するものです。古くはMauss, Lévi-Strauss, Marinowskiら人類学者による研究に源流があり、1970年代頃にHomans, Emerson, Ekeh, Blauなどの社会学系の理論家によって発展したのち、それ以降、上司-部下、組織-従業員、同僚同士、組織同士など、組織内外における様々な関係に当てはめて活用され、経営学研究の中でも最も幅広く言及されている理論の一つです。

この理論の基本的な考え方は、「アクター(個人・集団)は互いに資源を交換し合っており、互いに貸借のバランスをとるように行動する」というものです。ここでいう資源にはお金やモノのように有形のものもあれば、敬意、好意、感謝、支援など、無形のものもあります。

例えば、「上司が部下の面倒を見る → 部下は恩に感じて上司に報いようとする」というのも交換ですし、「組織が個人に様々な支援を提供する → 社員が組織に(通常の仕事の範囲を超えて)貢献しようとする」といったことも交換です。

ここで前提となっている人間観は、アクターは合理的に判断をする存在であり、自分の利益を追求する存在である、ということです。上記のように貸借のバランスをとる、というのは非常に計算的な思考・行動です。そして、どちらかが一方的に損をする交換は長期的には成り立ちませんから、バランスをとることが合理的なわけです(のちに、Lawlerなどが社会交換理論に情緒的(affective)な動機を導入する試みを行っていますが、そこについては話がややこしくなるのでここでは割愛します)。

この点が、他者を利する行動をとる、といっても、「他者の幸せを喜びとみなして、他者のために行動する」といった、純粋に利他的な行動(purely altruistic behavior)とは、全く異なります。言い換えれば、社会交換理論は、利他的な動機以外にも、他者を利する動機が人間には存在する、ということを示している点が面白い、とも言えます。

社会的交換には幾つかのタイプがある、ということは以前にも書きましたが、代表的なタイプに「交渉型 (negotiated exchange)」と「報恩型 (reciprocal exchange)」交換があります(reciprocal exchangeについては互恵型、返報型とも訳すようです)。

交渉型は、互いに取り決めをして、その上で交換を行うものです。例えば、上司と部下の間での「部の目標達成のため、この半期はXXXX万円の目標に取り組んでほしい。それが達成できたら、君の昇進に向けて僕は支援を惜しまない」「わかりました。約束ですよ」みたいな会話は交渉型の交換の例と言えます。一方で、報恩型は、そうした事前の取り決めを行わないのが特徴です。上記の例を報恩型の交換に置き換えると、「上司の掲げた部の目標の達成に向けて部下が自ら頑張り、上司は成果を上げた部下の意気を組んで、部下の昇進のために社内に働きかける」といったことです。

交渉型の交換は、Xに対してY、というふうに何を交換しているのが明確ですから、単発で完結する交換になる傾向があります。それに対して、報恩型は、何に何が対応しているのかが曖昧です。そのため、うまくいっている報恩型交換は長期的に関係が育っていくことにつながります。例えば、上の例であれば、上司が自分の昇進のために頑張ってくれた、と感じた部下が、さらに上司に恩を返そうとする、みたいな話ですね。

過去の研究からは、交渉型の交換よりも、報恩型の交換を行う方が、アクター同士(この場合は上司と部下)の互いの信頼関係が深まることを示唆する結果が報告されています。ですから、上司部下関係にせよ、同僚同士の関係にせよ、報恩型のメリットは大きい。

ただし、報恩型の交換にはリスクが伴います。というのも、自分が相手のために良かれと思ってやっても、相手からいつ、どのようにリターンが返ってくるかわからないからです。時には、肩透かしになってしまうケースもあるでしょう。

それでも社会から報恩型の交換がなくならないのはなぜでしょうか?

この問いに対する社会科学系の多くの分野に共通する答えが、「人間社会には、報恩に関する規範(the norm of reciprocity)があるからだ」というものです。規範とは、社会に幅広く受け入れられている「何が正しいことなのか」に関するルールのことを指します。つまり、人間社会には、「何かをしてもらったら、恩に報いるのが正しい」、さらに「それをちゃんとやらない人は罰せられるべきだ」と言う考え方が広く共有されている、ということです。

もちろん、個人差はあります。交換にあたって「相手にもらったよりも少なくしか返さない方が良い」と思っている人もいれば、「相手にたくさん与えておけば、より大きくなって帰ってくる」と考えている人もいて、そのことが職場での行動の個人差に影響を与えている、と言うことも知られています(この辺りは、アダム・グラントが「Give & Take」で詳しく議論しています)。

上司と部下、と言う観点にこれを当てはめてみると、「上司が同じように部下の世話をしても、努力として跳ね返ってくる部下もいれば、特に行動が変わらない部下もいる」というのは、当たり前のことなのだ、と言えますね。

ちなみに、これらの議論は基本的に「自分と相手」という1対1の交換モデルを前提に行われています。が、「多対多」の交換を想定した研究の流れも存在します(これまた、Lévi-Strauss, Marinowskiまで遡る歴史あるものです)。

経営研究の世界でこの「多対多」のモデルは全くと言っていいほど注目されていなかったのですが、バーチャルなプラットフォームの発展に伴って、不特定多数がチームを超えて関わり合うことが当たり前になってきた結果、徐々に研究が出てきている、というのが現状です(僕の博士論文はまさに、「多対多」のモデルを使って、企業内の社内インフラにおける情報共有活動について分析したものなのですが、ここでは長くなりすぎるので、またいずれ書きます)。