LSEの修士学生の就業体験から思うこと。

昨日は経営学部の修士プログラムのお手伝いで学生の面接をしたのだが、そこで、海外における学生の社会人経験について少々思うところがあった(イギリスだけの話で「海外」というのは若干憚られるのだが、LSEの場合、欧米諸国、インドや中国、中南米、アフリカなど多岐にわたる国から学生がきているので、敢えてひとくくりにした)。

うちの学部にはMSc. Human Recourses and Organisationsというコースがある。その名の通り、人材マネジメント論と組織論について主に扱うコースで、来ている学生は人事のプロとしてのキャリアを目指している学生が多い。

このコースでは、修士論文のオプションとして、学生がコンサルティングを企業に対して行い、そのレポートを修士論文として提出する、というものがある。自分で企業に営業をかけてコンサルティング先を確保してくる猛者もいるが、たいていは、学部が対象になる企業を開拓して、長年のお付き合いで引き受けていただいている、と言うパターンが多い。

当然、全員には行き渡るほどの企業は確保できないので、学生を選別する必要があり、そのための面接大会が昨日だった、というわけだ。僕以外に7人のアセッサーがいて、面接とプレゼンの二つのワークを通じてそれぞれの学生を評価し、最後に意見交換をして終了、という段取りである。

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さて、前置きが長くなったが、感じたことは大きく二つだ。

まずは、学部から直接、修士に来ている学生でも、インターンなどを通じて普通に働く経験を持っている学生がそこそこいる、ということ。

もう一つはインターンをしたことが大事なのではなくて、インターンなり、学校でのグループワークなりのなかで、その学生が何をしてきたか、のほうが大事だということだ(あたりまえだ!というお叱りの声も聞こえるが、形式論が先行しがちなようなので、敢えて書いてみる)。

一つ目のポイントについては、今の日本の上位校の学生(LSEとの比較なので)が学部時代をどのように過ごしているのか、残念ながら知見がないので確たることを言うことはできない。しかし、企業側の機会の供給としては、一部の企業を除いては本格的に職場に入って働くタイプのインターンはあまり提供していないと認識している。採用活動に向けて3年生の後半くらいからというのが多いであろう。

このあたり、ワークス研究所の豊田さんが指摘するとおり、大学生活における学びと進路決定の接続が希薄だという、日本の教育・労働市場の構造的な特異性からきているものだと思われる(この点も、タイトルで「海外」と乱暴な括りをした理由の一つだ)。

一方で、私が話を聞いた、あるいは他のアセッサーから共有を受けた限りでは、LSEにいる学生たちはリアルな職場に放り込まれ、必ずしも協力が得られるわけでもない環境でもがく、という経験をしているケースが多い。

実際、学生同士で比べてみると、こうした経験のある学生の方が当然のことながらリーダーシップを発揮する、チームの中で苦労する、業務を細分化してきっちりやりきる、といった具体例が豊富で、面接上の説得力がある、というのは確かであった。イギリスのような「新入社員をゼロから鍛える」という慣行があまりない労働市場において就業経験がとにかく重視される、というのもうなずける話である。

しかし、一方で二つ目のポイントとして、実は働いた経験がなくても、学業の中でのグループワークや、大学でのイベントなどで上記のような経験を自分で積んでいれば(経験不足の感は否めず、原石という印象は残るものの)これなら大丈夫そうだから企業に送り込んでみよう、という判断ができるのも、また事実であった。ただし、そうした複数の人と絡みながら、ゴールに向かって複雑なタスクに取り組む、というチャンスがなかった学生の話は、魅力が少ない。

ということで、結論は2つだ。まず、いわゆる社会人基礎力で語られるような対人影響力や自己管理、物事を動かす力といったものを鍛えたいのであれば、実際の職場にせよ、大学の中にせよ、しんどい思いをして人を動かし、タスクを管理してやりきる、という揉まれる経験がやっぱりものを言うということだ。

そして、それはインターンでしかできなことではないようである。学業の中でいい経験をしており、企業に送り込んでみたい、と思わせられる学生は実際に存在する。一方で、そうした厳しい経験をさせられないような「お客さん」として学生を扱うインターンはあまり教育効果はなさそうだ、ということも言える。

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まあ、ここまで書いてみて、ある種「あたりまえ」の結論になっちゃったなあ、という感は否めず、読んでいただいた方には申し訳ない。が、昨日数十人の学生をアセスメントする現場に関わって感じたことのまとめとしては上記のとおりである。

もちろん、上記の話はLSEに来ている、元々達成意欲が高くて自己規範の強い学生のサンプルからの話なので、違うタイプの集団であれば話は自ずと違うのかもしれない。また、負荷をかけすぎて学生が折れちゃったらどうする、とか、インターンで安易に現場で普通に働かせるのは搾取につながらないか、などなど、いろいろな議論があるのも承知の上である。が、就業につながる学習という点で、何が大事だろうか、という点では、上記の結論はそれほどずれてないのでは?とも思う。

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投稿者: 吉川克彦(Katsuhiko Yoshikawa)

国際人事・組織論に関する研究者、コンサルタント。PhD (Management, London School of Economics and Political Science)。2017年8月より、上海交通大学安泰経管学院にて、Assistant Professorに就任予定。

主な研究分野は組織論、人材マネジメント論、国際経営論。
Journal of World Businessに査読付き論文が掲載されたほか、Academy of International Business, Academy of Management, Association of Japanese Business Studiesなどの学会にて研究発表の実績あり。また、日本国内でダイバーシティマネジメントについての書籍を出版。また、人事関連の雑誌への寄稿、新聞への論考を掲載。主な研究実績についてはこちら。

コンサルタントとして、様々な業界の日本企業の人事・組織変革を支援。主なテーマは、企業理念の浸透、ダイバーシティマネジメント(女性活躍促進を含む)、人事諸制度の再構築、海外法人における人事体制の確立、次世代リーダー育成、採用戦略の立案など。

1998年にリクルートに入社。人材、組織に関する研究、コンサルティング、サービス開発に
従事。2013年に同社を退社。

1974年 兵庫県西宮市生まれ。京都大学経済学部卒。2011年にLondon School of Economics and Political Science にてMSc. Management, Organisations and Governance 優等修了(Distinction) および、PhD in Management (Organisational Behaviour and Employment Relations Track)を終了。

ご連絡はこちらまで。 katsuhiko78@gmail.com / k.yoshikawa@lse.ac.uk

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