日本マクドナルドについて国際経営の観点から考える。

米マクドナルドが日本マクドナルドの売却を考えているというニュースが出ております。

(日経新聞)
日本マクドナルド売却 米本社、ファンドなどに打診

業績もここ数年かなり厳しかったようですし、本国でも様々な新しい強豪や若者の食生活の志向の変化もあって厳しいようなので、なるほどそうきたか、という感もあります。

マクドナルドについては、色々とビジネス系のサイトなどで分析や解説記事が出ておりますが、総じて日本の市場の構造的な変化に着目したり、藤田氏時代の人材育成や日本ローカルの市場を重視した経営をポジティブに評価し、その後の本社主導の経営をどちらかというと批判的に見る記事が多い印象があります。

例えば、窪田真之の「時事深層」 16 日本マクドナルドはなぜ低迷しているのか?–外食業界の”二極化”鮮明に とか、マクドナルドと「ライバル外食」を分析する 「独り負け状態」に歯止めはかかるか? など検索すると出てきました。

いずれにしても、これらの記事の特徴はマクドナルド、というグローバルビジネスの進出先の一つである、日本、という市場の視点から見た記事な訳です。まあ、日本で上場もしている、ずいぶん歴史もある企業で、日本人の読者が読むことを想定して書くわけで、ある種、当然かもしれませんが。

しかし国際経営という観点から言うと、ローカルの視点も面白いのですが、逆にアメリカ本社から見るとどう見えていたのだろうか、という本社の視点でも考えてみるのも、なかなか面白いです(敢えて、本社=グローバル、とは言ってません。多分、アメリカの視点が多分に含まれているので)。特に、本社から海外拠点に対するガバナンスやコントロール、という観点ですね。

ここからは、私の妄想です。

・・・・・・

改めて歴史を少々紐解いてみると、最初から現地資本(=藤田氏の経営していた貿易会社)に対するフランチャイズとして始まっているのですね(今は49.9%はアメリカとカナダのマクドの法人が保有しているようですが)。

ただし、このフランチャイズ相手は、米本社のいうことをあまり聞きません。

まず、アメリカで成功してきた地方のロードサイド店という思想を拒否して、銀座に店を開きます。さらには、標準化&規模の経済、というチェーンビジネスの原則をこれまた拒否してローカルメニューを投入。さらには、フランチャイズモデルにも素直にのっからず、社員による直営店舗を主軸にした経営を実施。ことごとく、独自路線を突き進みます。

アメリカの成功体験が判断の基軸になっているだろう米本社の経営陣からすれば、「俺たちのいうことを聞かずにやりたい放題やっている、面倒な現地のフランチャイジー」以外の何物でもなかったであろうと思われます。もちろん、日本経済の成長の中で、どんどんビジネスは成長していましたので、うまくいっているうちはまあ、大目に見ておくか、といったところだったのではないでしょうか。日本企業でも、業績を上げている現地のマネジャーは(本国中心主義の傾向の強い)東京の本社に対して発言権を持てる、というのは、ままある話のようですし。まさに、「勝てば官軍」ですね。

また、メジャー投資をしているわけではありませんから、乱暴なことは米本社からもなかなかできませんし。

さて、この後、2002年に折しものデフレの中で、低価格戦略がうまくいかず、藤田氏が引責辞任します。

さあ、こうなると、本社の経営層としてはある種、しめたもの、だったのではないでしょうか?今までいうことを聞かなかった現地の先経営者がいなくなり、業績も残念な状態、となれば、自分たちの「ウェイ」を展開して、自分たち流でちゃんと経営をする絶好の機会、と映ったはずです。

しかし飲食は文化に根付いている部分も多く、外国人が乗り込んでいってもそうそううまく行きません。となれば、いきなり本社から直接人を送るのではなく、、米国流の経営とコミュニケーションがちゃんととれる「話の通じる」現地のプロに任せよう、ということになります。さらに言えば、傾いた企業の経営者として、株主の代表である取締役会が外から候補を探して送り込む、ということ自体がとてもアメリカ的なのも、面白いところです。逆に言えば、彼らからすれば、おそらく自然な判断だったのだろう、と思われます。

さらに、そのプロでもうまく行かなかったとなると、いよいよ本社から人を直接送り込んで、ダイレクトにコントロールしなければなりません。うまく行かなくなればなるほど、気心の知れた、判断基準や能力がはっきりわかっている人に、直接判断をさせたくなる、というわけです。もちろん、この場合の能力、というのは本社の文脈ですので、上記のように文化や市場が違う、という場合にどれくらい機能するか、というのは別の話なのですが。しかし、意思決定する側からすると、認知バイアスもあって、一番確実なのはこちらから送り込むことだ、と考えたのではないかと。

・・・・・・

個別の戦略の良し悪しなどについては、ここでは主題ではありませんから触れませんが、率直に言って、日本マクドナルドに起きたことは、本国を中心に世界戦略を考えている側からすると、結構普通の意思決定を積み重ねてきた、ということのように見えます。

結果的にそれはうまくいかなかったわけで、今から考えると良くない意思決定だった、という風になるわけですが。数年前から、批判的な見方の論考は結構あったような気もしますので、現地市場から見ると数年前からすでに、おかしく見えたということかもしれません。

ただ、ここで考えたいのは、上記にあるような風景って、日本企業でも(それ以外の国の企業でも)沢山あるのだろうなあ、ということです。現地流でやっている合弁先の経営者を煙たく思っている本社の人とか、傾いたのを機に、立て直しに本社から乗り込むとか、その結果として現地の市場を踏まえずに手を打ってしまう、とか。世界に自社のウェイを広めたい、といった話も、以前に書いた通り、私自身がコンサルタントとしてお手伝いしてきたこともありますし、本社の側からすれば、筋の通った話であることが多いとおもいます。もちろん、視点が本社に偏っている、というのはあるのですが、一方で現地化すればいい、というのも偏った見方ですしね。

僕が思うに、ここから学ぶべきことは、向こうの本社には本社なりの思考の枠組みと、ストーリーがあって、その中で彼らなりに意思決定をしている、ということ、そして、それが現地から見ると、実に残念な意思決定に見えてしまうことだってある、ということです。それだけの判断基準や市場の違いを踏まえて、どうすれば効果的な意思決定ができたのだろうか、というふうに考えるための肥やしにするのが、このケースはいいのではないかと感じます。

広告

投稿者: 吉川克彦(Katsuhiko Yoshikawa)

国際人事・組織論に関する研究者、コンサルタント。PhD (Management, London School of Economics and Political Science)。2017年8月より、上海交通大学安泰経管学院にて、Assistant Professorに就任予定。 主な研究分野は組織論、人材マネジメント論、国際経営論。 Journal of World Businessに査読付き論文が掲載されたほか、Academy of International Business, Academy of Management, Association of Japanese Business Studiesなどの学会にて研究発表の実績あり。また、日本国内でダイバーシティマネジメントについての書籍を出版。また、人事関連の雑誌への寄稿、新聞への論考を掲載。主な研究実績についてはこちら。 コンサルタントとして、様々な業界の日本企業の人事・組織変革を支援。主なテーマは、企業理念の浸透、ダイバーシティマネジメント(女性活躍促進を含む)、人事諸制度の再構築、海外法人における人事体制の確立、次世代リーダー育成、採用戦略の立案など。 1998年にリクルートに入社。人材、組織に関する研究、コンサルティング、サービス開発に 従事。2013年に同社を退社。 1974年 兵庫県西宮市生まれ。京都大学経済学部卒。2011年にLondon School of Economics and Political Science にてMSc. Management, Organisations and Governance 優等修了(Distinction) および、PhD in Management (Organisational Behaviour and Employment Relations Track)を終了。 ご連絡はこちらまで。 katsuhiko78@gmail.com / k.yoshikawa@lse.ac.uk

コメントを残す