先日、ライターをしている古い友人からメールが来まして、

「女性の部下に対して、男性の上司は低めに評価をする傾向がある、ということを示唆するような研究ってあるの?」

という質問を受けました。僕は、コンサル時代に女性の活躍促進に関する案件に複数関わった経験があることもあり、女性活躍に関する研究プロジェクトにも一つ関わっています。

一般論として、そうしたバイアスはあるだろうなあ、というのは想像に難くないわけですが、改めて調べたところなかなか興味深いことがわかったので、このポストにまとめておこうかと思います。

男性は女性部下が自分にとっての「脅威」になると低く評価しがち

Inesi とCableが2015年にPersonnel Psychologyというジャーナルに発表した論文によると、「男性上司は女性部下が自分の等級と近いレベルであればあるほど、低めに評価する傾向がある」とのこと  。

逆に、男性部下に対しては、自分の等級に近いからといって低めに評価するような傾向は見られず、明らかに男女で異なる対応を行なっている。

こうした傾向が、男性上司による意識的な対応(女性の昇進を妨げようとして低く評価をつけている)なのか、あるいは、無意識な対応のかについては、この研究では検証されていません。が、私は「無意識」でやってしまっている人も結構いるかもしれないな、と考えます。人間には、目に見える属性(例えば性別や等級)をもとに周りの人たちを頭の中で分類して、無意識に自分の「身内」を擁護しようとする(=身内びいき)という傾向があります。これが評価に結びつくと、自分から距離がある存在については公平性を保って評価できる一方で、自分や(自分の「身内」である)管理職男性たちの地位を脅かす可能性がある女性(=よそもの)に対しては、無意識であっても防衛反応をとってしまうためです。

多くの組織が、評価データを、報酬や昇進を決定する材料としています。ですから、こうした評価におけるバイアスは、「男性と比べて女性が登用されにくい、また、報酬が低い」という広く見られる傾向の原因の一つになっている、と言えるでしょう。

参考文献:Inesi, M. E., & Cable, D. M. (2015). When Accomplishments Come Back to Haunt You:  The Negative Effect of Competence Signals on Women’s Performance Evaluations. Personnel Psychology, 68(3), 615-657.

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男性も女性も、「異性」は低く評価しがち

さらに興味深いのが、VarmaとStrohが2001年にHuman Resource Management誌に発表した論文です。これは4パターンの上司と部下の性別の組みわせ(男性上司-男性部下、男性上司-女性部下、女性上司-男性部下、女性上司-女性部下)を比較し、上司が部下の評価をどのように行う傾向があるかについて分析したものです。

ここからわかったのは、「男性上司が(女性部下よりも)男性部下を高く評価する傾向がある」だけでなく、「女性上司も(男性部下よりも)女性部下を高く評価する傾向がある」ということです。

この研究は、人事評価のデータとは別に「個人のパフォーマンス」を把握した指標を用いて、統計的にコントロールしていますので、部下の個人差を考慮した上でなお、上記のような傾向がある、ということになります。

ここから言えることは、女性が活躍しにくい状態は再生産される、ということです。

「女性管理職が少ない」→「男性上司が女性部下を評価するケースが多い」→「女性が男性同僚と比べて低めに評価される」→「女性が昇進しにくい」→最初に戻る

このことからは、企業に強制的に女性の登用を義務付ける「クオータ制」にも、一定の理があるということになります。クオータ制は、「能力が実際にふさわしくない女性でも女性であるというだけで登用されることになるじゃないか。それは組織にとっても、女性たち本人にとってもマイナスだ」といったロジックで批判されがちです。しかし、この研究と上記研究を組み合わせると「とにかく女性幹部・管理職を増やさないと、フェアに女性が評価される状況になりにくい」ということが示唆されます。

参考文献:Varma, A., & Stroh, L. K. (2001). The impact of same-sex LMX dyads on performance evaluations. Human Resource Management, 40(4), 309-320.

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女性は評価されないと登用されないが、男性はそうでもなくても登用される。

そして3つ目は、LynessとHeilmanが2006年にJournal of Applied Psychology誌に発表した論文です。

こちらは企業の人事データをもとに、男性・女性の評価データと、その後2年間の昇進との関係にどんな違いがあるかを分析しています。

分析の結果わかったことは、「評価が行われたタイミングから2年以内に昇進した人を男女で比べると、女性昇進者の方が男性昇進者よりも評価が高い」、加えて「評価とその後の昇進の関係性も、男性管理職でよりも女性管理職での方が強い」ということです。

ここから言えるのは、「男性管理職は評価がそこそこでも昇進するケースがあるのに対して、女性管理職は評価が良くないとまず昇進しない」ということです。男性に対してよりも女性に対しての方が、昇進にあたって評価に基づく選別が厳密に行われてるのです。

この論文を読んで思い出したのが、昔、とあるIT系企業の人事部長さんから伺ったお話です。

吉川さん、昇進昇格の時期になるとね、各部門の幹部から決まって「そろそろ彼は昇進させないと」みたいな感じの推薦が人事に上がってくるんですよ。でも、女性の昇進については、こっちから候補はいないのか、って突いても「適切な人材がいない」、とこうですよ。何年経っても、これは変わらないです。

上記の海外のデータであるのに対して、これは日本での事例ですが、洋の東西を問わず、似たようなことが起きているのかもしれません。

参考文献:Lyness, K. S., & Heilman, M. E. (2006). When fit is fundamental: Performance evaluations and promotions of upper-level female and male managers. Journal of Applied Psychology, 91(4), 777-785.

まとめ

これらの3本の論文から言えるのは、「評価で男女差がつく」だけでなく「登用の段階でもさらに男女差がつく」ため、二重に男女差が生じるメカニズムが働いている、ということです。

こうしたバイアスは男性上司が意識して行なっている場合もあるかもしれませんが、上述の通り、無意識で生じているケースも多いと考えられることは、悩ましいポイントです。

本社の人事や女性活躍推進部門が、単純に「女性を登用しよう!」と旗を振るだけでは効果が薄い。もう一歩踏み込んで、実際の評価の現場や登用の判断の現場に介入しないと、効果は出ないのではないかと思われます。

投稿者 吉川克彦(Katsuhiko Yoshikawa) について

上海交通大学 安泰経営与管理学院 助理教授。経営学博士(PhD in Management)。リクルートグループにて人と組織に関する研究およびコンサルティングに従事したのち、2017年8月より現職。主な研究分野は組織論、人材マネジメント論。 京都大学経済学部卒。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスより経営学修士及び経営学博士を取得。ご連絡はこちらまで。 katsuhiko78@gmail.com

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