僕が働いている大学至善館(専門職大学院としてMBAコースを提供)と、その母体になったNPO法人ISL(企業に次世代リーダー育成プログラムを提供)では、今回のコロナウィルスの拡大を受けて、3月より完全に授業をオンラインに移行しています。

僕たちのプログラムは参加者同士のインタラクションからの学びを重視しているので、いわゆる講義型ではなく非常にディスカッションが多くて、オンラインに移行するあたって色々と工夫が必要でした。特に、僕が昨日実施した授業はケースを使って行うものだったこともあり、かなり入念な準備をスタッフと一緒に行って実施しました。他の先生方がやっているアプローチも含め、現時点でのポイントだと思っていることを纏めておこうと思います。ちなみに、僕たちはzoomをインフラに使っているので、それを前提にした記事になります。

① システムのセットアップ

まずはオンラインのインフラを整えることです。10人くらいの会議であればzoomで全く問題なくできるのは経験がありましたが、40人近いクラスを、更にケースを使って運営するとなると、多少話が変わってきます。例えば、次のような問題を解決する必要があります。

  • 40人の参加者の顔が見えて、なおかつ自分が投影している授業用のスライドも手元で確認できる状態を確保する

インタラクティブな授業に限らず、受講者の反応が分かることは授業デリバリーにおいて結構重要です。自分がしゃべっていることが相手に届いているのかが確認できることで、トークを調整できるからです。
Zoomでは最大49人まで同時に画面に表示できるのと、外付けのモニターをパソコンに繋ぐことで2画面構成ができます。具体的には、外付けモニターに参加者の顔をギャラリービュー(参加者側の映像がサムネイルで表示される)、パソコン側でスライドを表示するのが便利*。

ですが、実際にやろうとするとパソコンの環境の制約があります。具体的に言うとIntel i7以上(1画面ならデュアルコア、外付けモニターも使うならクアッドコア)のパソコンがないと25人までしか参加者の顔が一覧表示できず、それ以上の人数になるとスクロールしないといけません。

うちのキャンパスではこの条件を満たすノート端末がなかったので、多少アクロバティックですが、「外付けモニターを2台ならべて用意」「それぞれ別々のノートパソコンからzoom会議にアクセス」「それぞれから外付けモニターにギャラリービューで参加者を表示」するという手法で解決しました。zoomは会議室にログインした人から順番に表示されるという仕様なので、一方の画面には前半分の参加者、もう一方では後ろ半分の参加者を表示すれば、この手法で40人以上の顔を一覧表示できます

*ちなみに余談ですが、パワーポイントなどでスライドを共有する場合は、通常の授業のときのようにスライドショーにせず、通常の編集モードのウィンドウをzoomの画面共有機能で共有するのがおすすめです。スライドショーモードにすると、パソコン側の画面でいろいろな操作ができなくなるからです。

  • 生徒に対してインパクトが有るような喋り方ができ、なおかつ、ホワイトボードをタイムリーに書いて、それが学生から見えるようなセッティングを用意する

これは結構トリッキーですね。オンライン授業だと参加者から見える講師は限られた面積に全身の一部が写っているだけになるので、プレゼンスがかなり薄くなります。実際の参加者のフィードバックを引用すると「撮影された映像を見ているみたいな気分」になりやすく、参加意識、集中力が下がりやすい、とのこと。

先日行われたHarvard Business PublishingのOnline Teachingに関するウェビナー(昨今の状況を見て、急遽実施されたもの)でも、この問題に対しては、「講師は座るのではなく立ってデリバリーする」「カメラに正対してカメラに対して語りかけること」などが推奨されていました。実際、僕も実験してみましたが、通常の授業どおり立って、普段よりも大きめのボディーランゲージを使ってやるほうが、明らかにインパクトを維持しやすいようです。

さらに、ケースでディスカッションをする場合は、参加者の発言を拾いながらホワイトボードに整理をしていくことが大事なわけです。そして、それがカメラを通じて参加者から見えやすい状態にすることが必要です。完全にスライドだけでやる一方通行のレクチャーならともかく、学生とインタラクションをやるスタイル(ケースを使わなくても)であれば、これは必要な準備です。

本来であればオンラインで完結できればよいのですが、僕たちはzoomのホワイトボードはあまり使い勝手が良くないと判断して、物理的なホワイトボードを使うことにしました。

と、いうわけで、オンライン授業を行うために教室の一つに以下のような設備をセットアップしてます。ファカルティのスライド操作・共有用のPCの左側に講師が立って、手前にスライド、真ん中の画面で学生の顔をみて、さらにその奥(画像だと一番右側)にあるビデオ配信用のカメラに向かって語りかける、という形式です。あっという間にこの準備を進めてくれたスタッフのフレキシビリティに感謝感謝です。

ちなみに、この教室は壁がホワイトボードになっているので、ケースをやるときはそこにガンガン書いていき、サポートスタッフに適宜カメラを動かして画角を調整してもらう、という運用になります。

ちなみに、この画像ではモニターは一台だけですが、昨日僕がやったセッションでは40人近い参加者がいましたので、上述の2台使いでやりました。

② 受講者と教員のインタラクション

教室であれば、教員と学生のインタラクションは「アイコンタクト」「学生が手を上げる」「教員が指名して発言を促す」といったところが中心になるわけですが、オンラインの場合は多少の工夫が必要になります。上述のように画面で顔が表示されているとはいえ、リアルほど全体の様子がぱっと掴めるわけではないので、画面上で手を上げてもらうアプローチはちょっと使い勝手が悪いのです(人数が少なければ大丈夫なんですけどね)。

この対策には、Zoomに実装されている「挙手」機能が便利。これは、参加者リストに表示される「手を挙げる」というボタンが表示される仕組みです。これの優れている点は、手を挙げた人は、参加者リストの上の方に自動的にピックアップされるようになっていることです。参加者に、こちらが呼びかけるのに使える名前を使ってもらうように事前にインストラクションをしておけば、「教員から問いかけ」→「参加者が手を挙げる」→「そこからピックアップして指名」→「参加者が発言」という形でスムーズなやり取りが可能です。もちろん、こちらが問いかけをしなくても、質問がある学生が手を上げて講師に発言を求めるみたいな運用も、同じ機能で問題なく使えます。

ちなみに、これに関しては「チャット機能」も使えます。学生にチャット上に、疑問に思ったこととか感想とか雑感を自由に書いてもらうように事前にインストラクションしておけばよいですね。講義の流れを切るほどじゃないけど、ちょっと気になった、みたいなことは良くあるわけですが、そのあたりを講師がタイミングよく拾うことができるので便利です。

最後に、「投票」機能があります。これはzoomミーティングの設定画面で投票機能を使う、とセッティングし、さらに、事前に参加者に対する問いかけを決めてしておく必要があります。オープンクエスチョンではなく、ある程度、選択肢が決まった問いかけをする場合に便利。ホスト側の操作で参加者の画面に選択肢をポンと表示できて、集計結果を即座に参加者に共有することができるので、テンポ良い運営が可能です。sli.doでも似たような機能がありますが、それをzoomから画面を切り替えずにできるのが便利。ただし、事前に内部で検証をしたところ、参加者によって投票が表示されたりされなかったりというばらつきがあることがわかったので、今の所、僕たちの間では使っていません。

備考ですが、参加者には基本はミュートにして、マイクが音を拾わないようにしてもらう方が良いですね。各種テレビ会議でもやられていると思いますが。参加者のバックグラウンドノイズを参加者側のパソコンのマイクが拾ってしまうと非常にうるさいのと、リアルに比べて参加者間でお互いの様子を見ることができないので、同時に複数の人が喋ってしまい、どうぞどうぞ的な状況が起こりがちだからです。

このあたりを、オンラインセッションのグラウンドルールとして、一番最初に5分くらい使って説明をすると安心してセッションが進められると思います。

③ 受講者どうしのインタラクション

さあ、次は受講者どうしのインタラクションです。これは例えば、グループでディスカッションをしてもらったり、ペアでロールプレイをしてもらったり、といったものです。大人の学習の場合は特に参加者間の相互のやり取りから生まれる学びが結構大事なのと、能動的に頭を使った方が学習が進みやすいということは教育学の研究からわかっていますので、僕たちはかなり多用しています。

これに関しては、「ブレイクアウト」機能が秀逸です。ホスト側で参加者をオンライン上の小部屋に振り分けて、自動的に送り込む、というものです。部屋数を指定すれば、zoom側でランダムに振り分けもしてくれますし、ホスト側でマニュアルで振り分けを行うことも可能。このあたりは、講師が自分で振り分けをするのと結構まごつくので、サポートのスタッフについてもらって講師が喋っている間に振り分けをしてもらう、とか、そのあたりの連携が大事になります。

ブレイクアウトの部屋の中は、一つのzoom会議室になっており、そこで行われている会話の様子は講師側からは見えません。ただ、参加者がワークの内容などで質問がある場合、「助けを呼ぶ」機能を使うことでホスト側に助けを求めることができます。また、ワークの時間の管理をするなどのために、ホスト側から「何分経過」とかを全小部屋に表示することもできます。このあたりは、通常の教室運営とそんなに変わらない運営が可能で便利。

ブレイクアウトする段階で何分間やるかを設定しておけば、自動的にブレイクアウトの各小部屋にメッセージを出して終了してくれるので、時間管理も自分でやらなくてよいというのも○。ちょっとしたことですが便利ですねえ。

③ 授業のデザインのアレンジ

と、いう風にzoomの機能のおかげでかなり色々便利なわけですが、実際に授業を円滑にやろうとすると、どうも教案のデザインでも対応が必要だと感じてます。特に事前に丁寧に設計しておくことが重要。具体的には、

  • ブレイクアウトを使う、追加で資料を配る、投票を行うなど、セッション中に行うアクティビティについて、事前に計画を明確にして、サポートしてくれるスタッフがいる場合は共有しておく
  • 参加者とのインタラクションを通常の教室での授業よりもこまめに挟むよう、意図的にデザインする。また、そのインタラクションも色々な種類を用意する

といったあたりですね。講師がシステムの操作も自分でやらざるを得ない状況もあり得ると思いますが、できる限りサポートスタッフが居たほうが確実です。いずれにせよ、どの段階で、どのような機能を使うのか、事前の準備を丁寧にやればやるほど、運用が安定するのは教室での講義以上に重要なポイントだと思われます。

2点目の参加者とのインタラクションについては、上述の通り、オンラインはどうしても参加感が薄くなり、集中力が切れやすい、という問題に対処するものです。インタラクティブな講義を心がける、と言っても、現実的にはレクチャー的なパートが授業の中では必要なことも多いですが、その中であっても例えば15分に1回位は何かを学生にやらせるようにする、という感じですね。学生に聞いてみると、通常の教室での授業より短い間隔でそれをやるのが大事なようです。前述のHarvard Business Publishingのウェビナーでも、多様な質問を用意することの重要性を指摘していました。

このあたり、同じパターンでグループディスカッション→全体討議みたいなのを繰り返すと、以下に質問を変えても参加者が「またか」と飽きてくる感が否めないので、色々工夫したほうが良いのだろうなあ、と思ってます。通常の授業でもやってますが、ビデオ見せたり、ロールプレイさせたりとか、このへんはこれから模索ですね。

あとは、前述のウェビナーによると、ブレイクアウトにせよ何にせよ、参加者に対する指示や問いを、完結で明確なものにする、というのも大事だとのこと。これまた、集中力が途切れやすくて、聞き逃しやすい、というところへの対策のようです。なんというか、全体的に丁寧に授業を準備するというのがミソですね。

⑤ 参加者の集中力を切らさない運用

さて、これで最後の要素ですが、運用上での工夫をいくつか。

  • カメラ目線で、大きな身振り手振りで話す

これは、上でもすでに述べましたが、内部のテストでの同僚からのフィードバックを聞く限り、感覚的には2割増しくらいのエネルギーを使う感じで丁度いい印象です。ついつい、モニターに表示された参加者の顔を見て喋ってしまうのですが、それだとカメラから下を向いて喋ってる風になってしまうので、かなり意識してカメラの方を見てしゃべる必要があります。

また、カメラから画角上に入っている自分の体を意識して、カメラに映るようにボディーランゲージを使うこと、更には、大きめに動かすことを意識してやりました。細かい話ですが、肩くらいの高さで手を動かさないと、ジェスチャーとかが見えないんですよね。

  • コールドコールも含め、参加者に積極的にこちらから問いかける

コールドコールとは、手を挙げていない参加者に講師側から指名で発言を求めることです。教室でのセッションでは、「自分がいつコールドコールを受けるかわからない」という緊張感があることで、事前準備をきちんとするように動機づけられるなどの効用があります。が、オンラインのセッションでは講師と参加者の間で距離感が生まれやすいので、教室でのセッション以上に大事な感じがしますね。 実際、上述のウェビナー、うちの学生へのヒアリングでも、これは推奨されてました。

で、実際に昨日やってみたんですが、たしかに有効な印象があります。具体的には、事前に参加者のリストを印刷して手元に用意しておく→やりながら発言してくれた参加者の名前には印をつけていく→後半に行くにつれてだんだん発言してない人を選んでコールドコールをやっていく、という運営にしてみました。やはり教室でのセッションよりも全体に目が行き届かないということもあって、こういう形で手元にリストを持っておいたほうが、全体にバランス良く発言を求めていくのはやりやすいかも、と思います。

このあたりについては、今後さらに模索ですねー。

投稿者 吉川克彦(Katsuhiko Yoshikawa) について

大学院大学至善館副学長兼准教授。経営学博士(PhD in Management)。リクルートグループにて人と組織に関する研究およびコンサルティングに従事したのち、大学での研究・教育に転身。主な研究分野は組織論、人材マネジメント論。 京都大学経済学部卒。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスより経営学修士及び経営学博士を取得。2017年8月より上海交通大学 安泰経営与管理学院 助理教授、2019年8月より現職。ご連絡はこちらまで。 katsuhiko78@gmail.com

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